· 

8.3-9.1 今、できることがある。

とある少女との出会いから生まれた、アートプログラム

この夏、小児がんという病と向き合い続けた一人の少女が、愛する家族に見守られながら、空へと旅立ちました。

 

病と向かい合いながら、少女とその家族は多くの願いをかなえてきました。

 

今回の特別展示「今、できることがある」では、その少女の願いが私たちの願いとなり、少女とその家族から、周りへと広がっていく、その動きと広がり自体を表そうとする展示作品です。

ランダムに配置された「断片」と記憶

展示の中心は、少女を描いた絵本「わたしはひとりじゃない」から飛び出した、一体のゾウです。

 

台上にそのゾウと、少女が撮り、そして撮られた思い出の写真。天井からは、吊るされた、日付と出来事を綴った紙。写真と出来事、そのどちらもがランダムに配置されています。

私たちの記憶は、決して時間軸事に順序だてて思い出されるわけではありません。

あえてランダムに配置された少女とご家族の記憶の断片は、まさに私たちが記憶を思い出すプロセスそのもの。

 

この写真の中の景色が、まるで自分の中の記憶の中の風景のように、私たちの中に立ち上がってくるのではないでしょうか。

参加型展示としての「白い蝶」にこめた思い

今回の展示では、みなさんに「願い」を書いてもらうための白い蝶が、「記憶の断片」の合間に、たゆたうように設置されています。

日本の伝統的信仰では、人の魂を運ぶ存在、人の魂に姿を変え飛んでいく存在としても知られている「白い蝶」。

この「白い蝶」は、少女(の魂)自身であり、私たちの願いを少女に届けてくれる存在であり、様々な「交わり」を生んでくれる存在です。

 

その「白い蝶」が象徴するものは、もしかするとこの「1つだけ美術館」のありたい姿、なりたい存在(=1つだけ美術館の「願い」)なのかも知れません。

美術館としての「ケア」と「アート」への一歩

大きな偉業の有無にかかわらず、一つ一つの命が、人をつなぎ、変え、支えあえることができる、かけがえのない存在です。

 

今回の特別展示にあたり、一人の少女との出会いが、改めて、「一人ひとりが、生きていることの素晴らしさ、その生を支えることの尊さを伝えられる存在である」ことを、教えてくれました。

 

そんな「一人の少女の存在の凄さ」を伝えられることができれば、彼女を支えてきた周囲の皆さん、ひいては、そのように命を支える「ケア」に携わっている皆さんにとっても、力になれるのではないでしょうか。

そんな美術館の存在も「ケア」と呼べるのであれば、「ケアとアート」という視点から、社会に向け発信していくための大きな転換点になるのではないか。

 

とそんな「願い」を込め、今日も1つだけ美術館のゾウは、皆さんの「願い」を待っています。


1つだけ美術館は、ご来館いただいたみなさまからのドネーション(寄付)によって運営されるパブリック美術館です。

なにとぞご協力をお願い申し上げます。